私の仕事探し(連載第3回) パソコンを習得するぞ!

1996年2月から4月。初仕事はこなしたものの、そうトントン拍子には進まない。

 パートの面接に行ったり、在宅ワーカーとしてダイレクトメールを出したり、私の行く道はどこに…?

もう在宅入力はあきらめようか…

 初めて在宅の入力をしてみてその厳しさにぶち当たった私は、外へ出るかそれでも在宅を目指すか、揺れました。

  保育園入園申請のため、市役所から家庭調査に係の人が来たとき、私はパートの口が内定していると元気よく話し、内定している会社の名前や住所を報告したのです。夫が失業する、これはまあ本当でこの時期脱サラしたのですが、しかしパートはどこを報告したのかどうも記憶がこんがらがっています。内定したのは市内の○○商会だと思っていたのですが、この○○商会の面接に行ったのは4月のようです。

ワープロの時代は終わった、さらばオアシス!

 ワープロ専用機の仕事が減っているという知識はありました。前年の12月に発売されたウィンドウズ95が爆発的なブームを呼び、世の中はパソコンの時代に移行していくようでした。前の会社に勤めていた頃は、一本指打法であろうと、ワープロが打てるだけで重宝がられたものでしたが、そんな時代は完全に終わりのようでした。

  2月半ば、私はパソコンを買うことにしました。どっちみち私のオアシスはポータブルで画面が狭く、本格的に仕事をするには向いていませんでした。

  ワードとエクセルが入っているウィンドウズパソコンを買いましたが、最初はさっぱりわかりません。ワープロ専用機と違い、まずパソコンを起動する、それからソフトを起動する、それから日本語入力モードを起動する。文書を打ち始めるまでの道のりが遠いのです。

  3月に入って、一番安いプリンタを買いました。ところがパソコンが、このプリンタで印刷するのだということを理解してくれません。物理的にケーブルをつなぐだけではだめなのです。説明書通りにやっているつもりなのに、結局設定を終えて印刷できるまでに2週間かかってしまいました。このときの試行錯誤で、パソコンというものの中身をずいぶん理解しました。

それでももう一度ダイレクトメールを

 プリンタを買った数日後、保育園入園を許可するという通知が来ましたが、ちょうど例の大河SM小説の仕事はアップしたばかり、私に次の仕事のあてはありませんでした。どこだったか、たぶん入れると思ってお役人様に報告したパートの口も、なぜか落ちていました。あいかわらず外へ出るか在宅で仕事を探すか迷いながら、ワードを使って第2弾のDMを作り、発送したのが3月末か4月初旬でした。

  この頃ようやくFWORKのデータライブラリから『りびさんの営業指南』をダウンロードして読むことができたので、第2弾を作るときはかなり参考にしました。当時この営業指南はかなり影響力のあったものです。

  『りびさんの営業指南』では、ダイレクトメールをハガキで作るというところがミソです。封書は面倒くさがられるし、ファックスは相手の紙を使うことになるのでまずい、というわけです。私も最初のは封書でしたが、このときはハガキを使いました。

  ハガキの内容は、(1)“入力を請け負う”ということ、(2)使用機材…パソコンの種類、OS、ソフト、プリンタ(誇れる性能のものならですが)、(3)自分の名前・住所・電話番号・あれば屋号商号のたぐいなどです。

  ここに、(4)実績、が書けると光りますね~。お金を払ってでもコネを使ってでも一仕事してみる、というのはそのためです。

  屋号・商号は誰でもつけていいのですが、会社組織でないのに○○株式会社などというのはいけません。あった方が本格的にやっている感じがするでしょうが、当時の私程度の機材では、誰が見ても“本格的な感じ”はしませんから、自分の名前だけでよかったかもしれません。一生懸命背伸びしてひねった屋号をつけてみたのが、今となってはほほえましい感じです。

料金は書きようがない、書いてもしょせん意味がない

 駆け出しの頃は入力料金を書く必要はありません(テープ起こしはちょっと別)。どっちみち、最初は提示された料金通りでやることになると思います。駆け引きをしようにも実績がない、いくらが妥当なのかわからない、自分がどの程度できるのかわからない…ですから。ただ少なくとも、ベタ入力のスピードだけは把握しておくことをお勧めします。

  ハガキは30~40通出したでしょうか。お客さんもハガキのレイアウトなどをチェックしてるはずです。今見るともう少しうまく作れなかったかと思いますが、それでも書体・字の大きさ・配置に変化をつけ、レイアウト枠や図形描画などもマニュアルを見ながら入れた、ワードのレイアウト初挑戦としては一応のものでした。

  送り先はまた電話帳から、距離的に近い印刷会社のうち、前回出さなかった所です。前回のたった1通の反応が印刷会社だったこと、「売り込みはよく来るけど、あなたが近所だったから頼んだ」と言っていたことを参考にしました。そのたった1通の反応が、DMを出してから2カ月も後だったことを考えると、またそれだけ待つのか、待てるだろうかと不安でした。

せっかく保育園に入れたのに仕事がない

 印刷A社からも2度目の仕事は来ませんでした。前回は年度末だったから仕事が重なり、ふだん出している人だけでは間に合わなかった、今はもう4月で一息ついたから、ということでした。繰り返し出してもらえる品質の仕事はしたつもりでしたが…。

  あまり入力時間が取れなくて、納期ぎりぎりだったのがいけなかったのだろうか、なんとかあと2日早くアップすることはできなかっただろうか。今度は子どもが保育園だから、この前の半分の日数でできるのに…と自問自答です。

  夫の両親はクリーニング屋で、脱サラした息子を入れてくれることになりました。ただし外回りをして少しは仕事を取ってくること、という条件付きです。店&両親の住まいからわが家まではクルマで20分もあり、もちろんうちの近所の人は誰も店の存在など知りません。この土地でお客を作るためには、まずポストにチラシを入れようということになりました。「パソコンで作ってくれ、早くしないと春の衣替えシーズンが終わってしまう」と、夫は連日の催促です。

  パソコンは、ペンティアム100という低スペックなのに20万円以上しました。当時はとても高かったのです。夫が使うためではなく、これは完全に私のための買い物でした。仕事が見つけて元を取ることができるかどうか何の保証もないのに、「やってみたらいい、向いていると思うから」とパソコン購入を勧めてくれた夫のためにも、なんとかお客を呼べるチラシを作らなければなりません。そこで、DM作成に続いて、クリーニング屋のチラシ作りに挑戦しました。

とにかくワードでチラシができた

 毎日マニュアルと首っ引きです。B5の1枚を作るのに3日かかりましたが、ワード95の機能をかなり使って、今ならもっとうまく作れる部分もありますが、独学の初心者としては悪くない出来です。

  ヘッダーに店の名前を大きく入れ、フッターで住所・電話番号・営業時間などを入れました。本文は段組みで、左には主な品物の値段と、集配に回る時間を書き、女の人が電話をかけているイラストを貼り付けて「冬物取りに来てもらえます?」という吹き出しをつけてあります。右側の段は罫線で囲んで枠を2つ作り、かけはぎ・リフォームなどいろいろできるというPRと、ご挨拶文とを、それぞれ入れました。

たしかにヒマそう、印刷機が止まってる

 チラシの中身をくわしく説明したのは、このあとこのチラシが私の売り込みにも役立ってくるからです。

  「パソコンができます、ワードができます」と口で言うことは簡単ですが、何がどうできるのかを口で説明することはむずかしいのです。紙を持って行けば「なるほど、こんなレイアウトができて、こんな機能が使えるわけですね」と一目瞭然です。

  「ワードができます」といっても文字打ちができるだけなら、どのワープロ専用機・パソコンのどのワープロソフトでも同じです。ヘッダー・フッターの入れ方、罫線の操作、段組の方法などが、ソフトによって違うわけですから、そういう部分がある程度できてこそ「ワードができます」ではないかと思うのです。

  後に入力請負T社に入って在宅さんの面接をするときには、「何か最近打ったものを持ってきてください」とお願いするようにしました。驚くほど実力がわかります。

  それはそうと、このチラシは私に仕事をくれた印刷A社に印刷を頼みました。他に印刷屋さんを知らなかったからでもありますが、顔をつないでおきたかったからでもあります。レイアウトものも打てるというPRでもあります。4月になって暇だからという話の通り、暇そうでした。印刷機に寄りかかって、男の人たちが世間話をしていたほどです。これじゃあ新参者に仕事は来ないなあと理解できました。

 

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