私の仕事探し(連載第11回) ザイニュー効果と新しい仕事

2001年。『月刊 在宅入力者』を創刊して以来、私の仕事は、またまた変化していった。良くも悪しくもザイニューと共にあった1年だった。

数千円だけど納税者だ!

 在宅ワーク1年目、すなわち1999年、私の年収は44万円。それでパソコン、プリンタ、トランスクライバーを新調したせいのですから全然儲かりませんでした。2年目の2000年、年収は、入力会社のパート(週5日9時~5時)だった頃と同じくらいになりました。しかし、在宅ワークでパート並みの年収といっても、その半分以上は経費で飛んでいます。すなわち「所得」はパート時代の半分以下です。
 個人事業主の場合、簡単に言って「所得」とは「収入-経費」です。私程度だと、所得の10%が所得税として引かれます。2000年は数千円の所得税を払いました。住民税も年間数千円ですが、一応払いました。夫の扶養家族からも抜けています。
 私の場合、所得税は払うものではなく取り返すものです。クライアントのうち3社が出版社なので、源泉で10%天引きされているからです。すなわち、2万円の仕事をすれば、銀行口座に振込まれる金額は18,000円です。
 つまり2000年は、天引きされた所得税をあらかた取り返したのですが、惜しくも数千円は取り返しきれなかったわけです。
 私の場合、天引きのクライアントは出版社だけです。入力会社や印刷会社、一般企業、役所などからは天引きされません。何らかの区分があるようです。

電話・電気代を経費に計上

 いかにこの源泉税を取り戻すか。1年間、せっせとレシートをためておきます。交通費もせっせとメモを取ります。自宅で仕事をしているので、電話代と電気代の一部も経費に入れています。
 ガス代や水道代は、私の仕事には直接関係しませんが、電話代は、うちの場合、ほとんどがインターネット関連です。ごく控えめな割合で按分して、経費に繰り入れています。
 電気代ときたら、冬は半分は私が使っているようなものです。昼間中、誰もいない家で暖房をつけて仕事をしているのですから。夜中、家族が寝たあと、また一人で暖房をつけていたりします。といってもそれ以外の季節は、そんなに仕事がらみで電気代を使っているわけでもないので、これも控えめに按分して経費に入れています。

全然違う会計パターンに

 在宅ワーク3年目、すなわち昨年1月から12月の分も、集計してみました。それまでの2年間とはかなりパターンが違います。理由は簡単で、「年収」というより「年商」というべき部分が大きくなったからです。
 ザイニューを出していると、例えば今月号を発送する会員さんが800名いるとすれば、それだけで40万円の売上げがあるのです。年に12冊は出せませんでしたが、それにしても年間数百万の金額が口座に振込まれてきたわけです。
 が。が。が。出費もまた激しい…。800名であっても800部だけ刷ることはできず、1000部刷るわけです(また在庫が…)。印刷代が15万以上、宅配便代が13万以上、イラスト、ウェブ、事務局などなどをお願いしているかたがたへの支払い(一人ひとりには申しわけなさすぎる低金額なのですが、まとまるとそれなりに…)。取材の交通費、封筒の印刷、宛名ラベルと、実に細かいものが積み重なっていきます。
 ですから、ザイニューに関しては、普通のお店の経理みたいな感じです。入力者としての会計とは雰囲気が違います。
 結局のところ、ザイニューそのものは儲からないのですが、いわばザイニュー効果とでもいうべきものが、たくさん出てきた昨年1年間でした。
 白夜書房のムック『女性のパソコン』に記事を書くことができたのも、もとはザイニュー2号の特集「勉強しよう!」の取材で、編集部を訪問したのが縁でした。私は人に会うことにはあまり積極的でなく、そんな口実でもなければ、絶対編集部訪問などしなかったと思います。

少女マンガを描いていたあの頃(私は絵はヘタでした。お話をつくるのが好きだったんです)

 ちなみに、話はそれますが、高校時代に編集部めぐりなるものをしたことがあります。漫研で少女マンガを描いていた私たちが、ともかく16ページマンガ1本を仕上げたときのことです。それを少女マンガ誌の編集部に持ちこんでみてもらったらいいと、先輩から言われたのです。
 こんなたどたどしい、たわいないものを、そんなところに持っていってどうなるのか。私たちはしり込みしましたが、説得されて、先輩に教わったとおり、まず各編集部に電話をしてみました。どこも、快くスケジュールを入れてくれました。
 こうして、夏休み(だったと思います…冬休みじゃないと思うけど…)のある日、たしか2回に分けて出かけた先は、LaLa、花とゆめ、別冊マーガレット…だったかな?
 私たちの作品は、まったく箸にも棒にもかからない子どもの落書きでしたが、編集者は親切に相手をしてくれましたし、雑誌ごとの編集方針の違いなども感じることができました。例えば、友人の作品には、主人公の少女が刺されて血が飛び散るシーンがありました。別マは、「うちの編集方針として、血が飛び散るシーンなどはダメ」、花とゆめは「いけないものは特にない」とのことでした。
 このとき、ただ一作品「このセンスが面白い」とどこかの編集部(LaLaだったか?)で言われていたのが、みほしのです。えっ、みほし? そうです、今、ザイニューの表紙を描いてくれている和田みほし様です。私と彼女は、高校のクラスメート&漫研仲間だったのです。
 そして、編集部めぐりを勧めてくれた先輩が、前号のこの欄で書いた私のメンターの一人、ザイニュー創刊にあたってコーチングをしてくれたかたなのでした。

出社パターンに配慮する

 ある少女マンガ編集部は、午前11時に訪問したのに、出社している社員はわずか2名でした。こうして私は、編集部という職場がかなり極端な夜型であるという知識を得たのです。今、クライアントに出版社が多いので、その知識が役立っています。夜中の2時に質問メールを出すと、15分後に返事が返ってきたりするのですから。
 もっとも、朝9時15分に電話をしてもOKというきちんとした?編集部もあるので、きっと職場のカラーはいろいろなのだと思います。
 一般企業に朝一番で電話をするとき、9時ちょうどは避けましょう。朝礼(あるいは朝のミーティング)のまっただ中だったりすると、電話口に出てくるまでにかなり時間がかかります。また、朝礼はその日の仕事の進行を確認するために重要なので、電話に呼び出された社員やその周囲の人にも迷惑がかかります。
 私がいた入力会社では、在宅さんに対し、電話は9時15分以降、納品に来るときなども、9時に着いてしまったら階下で待っていてと頼んでいました(社員のスペースは2階でした)。

出会いは複雑にからみ合い…

 ザイニュー効果の一つは、笠松ゆみさんとお近づきになれたことでした。おかげで、ライターズメイトの講師なるものをさせてもらったり、昨年末には「SOHO勉強会@川崎」の講師に呼んでもらったりしました。
 笠松さんとも、実は過去に出会いがあったのです。この欄で以前書いたニフティ在宅ワーキングフォーラムの「テープ起こしProject」が、私のテープ起こし初挑戦でしたが、あのときトランスクライバーを貸してくださったのが笠松さんなのでした。(フォーラムではハンドルネームで登場されていましたが、本名もフォーラム内で明かされていましたから、ここでご紹介してもかまわないと思います…。)
 ですから、私は最初からトランスクライバーを使ってテープ起こしを始めたわけです。フットコントローラーの快適さに慣れてしまうと、とうてい手動でテープをがっちゃんがっちゃんという気分にはなりません。
 笠松さんは、在宅ワークの本を過去5冊出されています。私が入力会社のパートだった頃、チーフが笠松さんの本を書店で見つけて買ってきたことがありました。
「この本、すごくいいこと書いてあるのよ~。うちの在宅さんたちに、これ買って読んでねって言ったらいけないかなあ」と、本気で考えているようでした。
 しかし、社長に「在宅さんに金銭的負担をかけるのは不可」と言われるのがわかっていたので、そのプランは沙汰やみになりました。
 本当は、在宅入力者一人ひとりが自分で研鑽を積むべきなのですし、仕事の本だって買って読むべきだとは思うのですが。

自費で勉強するのは悪いこと?

 あるとき、私が分厚いエクセルの本を参照しながら仕事をしていたら、古参の在宅さんに「その本、自費? 会社に買ってもらったの?」と聞かれたことがありました。「もちろん自費ですよ~」「えーっ、ひどい会社だね」
 私は、ひどい会社だとは思わなかったので反論しました。
「でもご主人、仕事がらみの本買って家で勉強されたりしてません?」「そういえば買ってるなあ」
 男性の正社員なら自費で勉強するのは当然だけど、主婦のパートなら自分では一円も出さない。どうも主婦はこういう発想が多く、自分の勉強は自分のためだという考えが足りません。会社が研修制度をつくることも大切でしょうが、自分で勉強をすることだって必要だと思うのです。身につけた技術は自分の財産なのです。
 ザイニューが儲からないので、父に「どうして送料別にしなかったんだ」と言われたことがあります。父は、経営コンサルタントでして…。
 でも、送料込み500円だからなんとか購読してもらえるけど、これが送料別だったら二の足を踏むかたが多いと思うのです。私自身、採算のことは別として本体500円などという、そこまでの価値はないように思えますし。ちなみにメール便の送料は160円です。郵便局だと180円なのでちょっと節約しているわけです。
 でも、もうほとんど終わりになった今でも考えてしまうのです。送料別だったら、私はほかの仕事をしなくてもザイニューの発行だけで暮らしていけます。そうすれば、もっと充実した誌面にできたのではないかと。

経費をかける!という意気込み

 仕事の勉強や経費にお金をかけること、これは、本当は必要なのだと思います。
 ザイニューのランチオフ。メーリングリスト「テープ★おこし太郎会」のオフ。昨年末のSOHO勉強会@川崎。なぜか、同じ人にあっちこっちでお会いします。出てこない人は、どこにも出てこない。性格が積極的・消極的とか、外向的・内向的とか、幼児がいるとかいないとか、どうしても出てきやすいメンバーは決まってくるのかもしれません。
 とはいえ、積極的な人は、子連れ可なら連れてきますし、子連れ不可なら預けてでも出てくるものではあります。
 在宅ワークだからといって、家から一歩も出ないというものでもありません。こういう場所で仲間ができて、仕事を一緒にすることだってあるのですから。SOHO勉強会@川崎では、取材にみえていた『女性のパソコン』編集部から、メンバーに対して仕事の打診が出ていました。
 実のところ、私自身はまったくの出不精なのですが、家にいながら800名ものかたと交流できる『月刊 在宅入力者』は素晴らしい世界でした。ドキドキしながらインタビューもして、自分が案外、人の話を聞くのが好きなのだと発見しました。
 経費も、かけないよりかける方がいいと思います。必要な経費はかけるぞ!という意気込みでいれば、いつまでも激安の仕事をしているわけにはいきません。
 経費は1円もかけたくない、勉強はしたくないと思っていると、単純な仕事しか受注できません。どうせ仕上がりが悪いんだから安く出そうと、クライアント側が思ってしまい、両者の思惑が一致して(?)低単価の悪循環に陥ります。
 ともあれ、昨年の「年商?」は数百万で、「所得」はようやくパート並みまでこぎつけました。たぶん年間の所得税も、数千円から脱皮して数万円(まだ1ケタ)ぐらいになりそうです。今年は、ザイニューが年初で終わる予定なので、その後また仕事のペースが変わりそうです。

 

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