hiroさん3

外注費の支払い増に喜ぶ

 2006年3月、初めてhiroさんにアンケート入力をお願いした。2006年の会計記録を調べたら、2度目が同年8月で、それ以降今年秋までほぼ毎月仕事をお願いしている。

 

 途中から、顧客の部署内で私に発注してくれる担当者が増えてきて、アンケートがいくつも重なって届くようになった。外注者を増やしたが、入力前の準備作業と入力後の集計作業はどちらも私の担当だから、時間が足りない。ついに2007年4月、仕事の進め方を大反省し、集計作業も外注することにした。

 

 遠方の人が多いので、直接手順を教えるのは難しい。集計作業マニュアルを作った。マニュアルの各段階にチェックリストをつけて、チェックもれを防げるようにした。
 これがうまくいって、私はだいぶ楽になった。アンケート1件あたりに支払う外注費がアップしたのも良かった。なぜ外注費の支払いが増えてうれしいかというと…。

 

 データ入力は、単価が安いために人材が育たない、だから精度が低くなり、出す側はさらに単価を下げてくるという悪循環に陥っている。
 だったらデータ入力の単価をアップすればいいようなものだが、一つの大きな仕事の流れの中では、データ入力というのはほんの一部分に過ぎない。それに大きな金額を支払うことは、どの企業にもできない(それにしても、最近の価格破壊は極端すぎるとは思うけど)。

 

 データ入力者の側が、入力だけでなくその前後の作業能力を身につけて、自ら報酬アップを実現するべきだというのが私の持論。アンケートを入力するなら、その集計もでき、グラフも作り、自由回答の属性付き抽出もできればいいのだ。
 私自身そのようにしてきたし、私から外注する人にもそうなってほしいと思っていた。だから、集計作業までやってくれればそれなりの報酬を払うことは、むしろ喜んでやっている。私も劇的に楽になったのだから。

 

 なーんて優雅なことを言っていられたのも、実はこのアンケート集計の報酬が結構良かったからだ。しかるべき外注費を払っても儲かったのだ。
 今年の秋になって、前途に暗雲が…。

 

データ入力系の危機は続く

 この連載の12月12日、hiroさんの仕事先だった印刷会社の仕事が減り、やがて来なくなった話題で、「そういう親切な会社だから業績が危なくなるのかもとhiroさんは苦笑した」と書いたが。
 そのとき私は「××社もそうかもしれませんね」と答えて、二人でさらに苦笑したのだ。

 

 ずっとアンケートの入力・集計を私に発注してくれた××社は、この春ある会社に吸収合併された。そのときhiroさんは、仕事先だった印刷会社の例を引き合いに出して今後仕事は減ると予言したのだが、減らなかった。
 旧××社の社員は合併後ますます忙しくなったようで、今年の秋は過去最多の件数が入ってきた。

 

 ところが、その直後から日本経済(というか世界経済)は不況に突入。アンケートの発注数を絞ることと、単価ダウンが通告された。単価ダウンの方は多少交渉したけど、発注の大幅減はどうにもならない。当然、私からhiroさんたちへの外注も停止状態になった。

 

 ずっと以前、文書作成という仕事が極端に減った。その次に、ベタ入力の仕事が同様になった。データ入力の仕事も減って、見つかるのは極端に単価の低いものばかりだ。個人情報保護法などで社外に仕事を発注しにくくなっているのも、在宅入力者の仕事を減らしている。

 

 hiroさんは、OCR校正の仕事を一度やったことがある。これは神経を使うし、結構時間もかかった。ネット検索で情報を収集する仕事もやってみたことがある。ADSLだからかWebサイトの読み込みに時間がかかりすぎて能率が悪く、やめたという。
 データ入力系の仕事は、全体にかなりの危機であることは間違いない。

 

 hiroさんが所属しているワークグループは、本来テープ起こし中心に活動している。hiroさんもテープ起こしをやらないわけではなく、リーダーにも出来を認められている。でも、テープ起こしをメインにすることにためらいがあるという。
 そこにhiroさんの面白いというか独自な面が出てくる。

 

テープ起こしはアバウトさを含む

 hiroさんがテープ起こしに気が進まない理由は、最初なかなか理解できなかった。データ入力系であれば、集計作業のような全く異質の仕事でも快くやってくれるのに。

 

 この秋はテープ起こしもだいぶ重なった。それで結局、hiroさんにもテープ起こしをお願いすることになった。
 仕事でのメールのやりとりに、テープ起こし自体についての話題が、たまに雑談のように混じった。その中で私は、hiroさんの完璧主義というかミスなく仕上げたいという志向に、テープ起こしという仕事が合わないのだと気づいた。
「データは見直しほどほどで納得するのですが、テープは聞きなおす度に訂正するところがたくさんあって、底なし沼のような気がします…」と、メールにあった。

 

 人間のしゃべり言葉はずいぶんでたらめなもので、言葉どおり文字にしても意味が通じにくかったりする。しゃべったとおりでなくある程度整えるとしても、その整え方は明文的に定められるようなものではない。出す側としても大まかな方向しか示せない。

 

 つまり、テープ起こしでは一つの解答というものがない。何が完全なのか、何が100パーセントなのかさえ、分からない。
 そのことにストレスを感じすぎてしまうと、テープ起こしはつらい仕事になる。何回聞き直しても、何度手直ししても、元のしゃべりが本質的にアバウトさを含むのだ。それは本人のミスとは違う。

 

 データの集計というのは、データ入力以上に実はhiroさんの得意分野だったのかもしれない。データ入力は多少のあいまいさ(手書きのアンケートだと、字が汚くて読めないものなど)があるが、集計には絶対に1個の正解しかないのだから。

 

洋裁の会社も見学したけど…

 テープ起こしかデータ入力かという以前に、全然別の選択はないのか。
 hiroさんは、今のところパートなどで外に出るつもりはないという。パートの仕事で多いのは流通系だから、土日や夜の勤務が必要になるかもしれない。ご主人は、九州の中で単身赴任しているので、2週間に1回程度は帰宅する。その土日に自分がいないのはちょっと…と感じるそうだ。
 自宅がバスのルートからやや不便なところにあり、お嬢さんをクルマで送り迎えすることもあるので、それもあって外に出ようという気にはなりにくい。

 

 hiroさんは、短大の家政科を出ている。特に洋裁は得意で、お嬢さんたちが小さい頃は洋服をたくさん作っていた。お嬢さんたち(子供時代)のピアノ発表会の写真を見せてもらったら、お手製だというすっごーいドレス。
 この特技を生かす道はないのか。地方に住んでいても、個人でも、ネットショップで注文を受けてから売ればいい。現に私は、子供たちの発表会のワンピースを、洋裁好きな個人の方のネットショップで買ったことがある。
 「子供たちにばりばり作っていた頃はまだインターネット以前で、そういう形態がなかったんです」とhiroさん。昔、地元で洋裁の会社を見学に行ったことがあるという。作業場でやっても自宅で作業してもいいというシステムだった。でも「思ったより難しそう…」とためらっているうちに、入力が仕事に結びついてしまったのだそうだ。

 

 というわけで、今のところ、hiroさんは外へ出ることも在宅で別の仕事をすることも、特に考えてはいないという(私としてはホッとしたけど)。

 話題は変わるけど、hiroさんの出た家政科は、被服などいかにも家事っぽい内容と、実験室で試験管を振るような内容が混在していた。短大卒業後も、食品メーカーの分析室に勤務した経歴がある。
 そうか、hiroさんは理系的な面もあるんだな、と密かに喜ぶ私。最近、ちょっと理系的なテープ起こしがあるから。

 

テープ起こしの「良い仕上がり」とは

 hiroさんはテープ起こしが苦手だというが、周りの人はhiroさんの起こしを評価していた。最近hiroさんは、そのギャップを埋めつつある。

 

 hiroさんがテープ起こしについて語った内容は、取材メモによるとこんな感じだ。
「会議で大勢がしゃべっていると、聞き取るのが難しいと感じる」「話者の特定が難しい。会議の冒頭に自己紹介している部分と聞き比べているけど、興奮してしゃべっているときは声が高くなったりして、感じが違う」

 

 「いや、それ普通」と、テープ起こしをしている人は全員、パソコンの前で今突っ込んでいると思う。それはもともと、完璧に処理することは不可能な部分。できる範囲でやるしかない。

 

 不明が出たり、起こした言葉が間違ったりするのも、ある程度仕方ない。すべての業界用語や専門用語を覚えている人などいるわけがない。
 私がhiroさんのファイルを聞き直して修正できるのは、例えば10年も発注してくれているクライアントだったりして、私がその業界の言葉になじんでいるからにすぎない。
 hiroさんの起こしを聞き直すときは、そういう特殊な用語を直すだけでほぼ仕上がる。句読点の位置や段落替えの位置が自然だし、誤字や全半角の間違いがない。つまり、ベースとなる部分が安定しているので、修正が単語単位で済む。

 

 というようなことを私が伝えるちょっと前に、テープ起こしを手伝った別の人からも同様のことをhiroさんは言われたという。
 グループのリーダーさんから「もっと自信を持って」と言われてきたhiroさんは、テープ起こしの場合の良い仕上がりということについて、納得しつつあるようだ。データ入力系での良い仕上がりとは少し違う、ということについて。

 

 11月13日の佐賀セミナー、私の出番は午後からだったので、午前中、hiroさんが佐賀までの途中で太宰府天満宮を案内してくれた。もみじと青空の下で、焼きたての「梅が枝餅」を一緒に食べた…。
 というわけで、明日からhiroさんと私の「連載を終えて」を掲載して、今回の連載は終わ

り。hiroさんありがとうございました。

 

連載を終えて…1

(hiroさんにコメントをいただきました)

 

 廿さんから「セミナーで佐賀に行きます。お会いできませんか?」とメールをいただきビックリ! 東京の交流会でお会いした時は、みんなとワイワイとお話できたのですが、今度は1対1。嬉しいながらもパニクってしまいました。しかもその後に、話した内容を連載したいとのお話があり、2度ビックリ!!

 

 ザイニューは読ませていただいていますが、登場する方はバリバリと働いている方ばかり。屋号も持たずにヘルプばかりやっている私が何故? 何も書くことがないのでは? と思ったのですが、これから在宅ワークを目指している人たちにとっては、私のような普通の人間のほうがハードルが低くて、スタート地点での目標になるのかな? とも思い、お受けすることにしました。

 

 母を早くに亡くし、家でやれる仕事ならと思い始めた在宅ワーク。ひとり暮らしの父にいつでも会いに行けるようにと思い、続けていましたが、その父も昨年他界。今度こそ外に出ようとも思ったのですが、あと何年一緒に居られるかわからない娘たちとの時間を大切にしたいとも思うようになりました。

 

 廿さんには、教えていただくことばかりなのですが、いつもとても分かりやすく的確な答えがいただけるので、とても勉強になります。
 また、とても有名な方なのに、お会いしてもそれをちっとも感じさせないし、メールに思わず微笑んでしまうような一文を添えていただけることもあり、楽しくお仕事させていただいています。私は、廿さんからお仕事がいただけて本当にラッキーだと思います。

 

 遠い九州からではありますが、またお会いできるのを楽しみにしています。
 これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

連載を終えて…2

 今年も忙しかった。
 ようやく年末にたどり着いた…。もう力が抜けてやる気が出ない。我が家で「電池切れ」と呼ぶ状態だ。年内に仕上げておきたい仕事があるのに。そもそも、この連載だって先週のうちに終わるはずだったのに。

 

 振り返ってみれば、今年の1月は末期がんの義父がいつどうなるかわからず、万一のときのセミナー講師を山本牧子さんにお願いしていた。2月に義父が亡くなって、仕事はhiroさんや文月さんをはじめとする多くの方の力を借りた。
 安心してお願いできる人がいるのは本当に心強かった。

 

 前年の外注費が100万近くもかかったので、今年は絞るぞ、自分でやるぞ!と思っていたのだけど、やっぱりそうはいかなかった。終わってみたら、今年の外注費は200万。
 でも結局、頼めるものは頼むと割り切った方が、私の仕事はうまく回るようだ。

 

 …うーん、hiroさん記事のあとがきになってないような気もする。でも、私の中では、これはつながっている問題なのだ。

 

 なので、もうちょっと書いてしまうと。
 hiroさんや文月さんなど「入力していると楽しい、仕事があれば何時間でもやらずにいられない」という人たちに比べると、私は入力に向いてない。
 入力は好きだけど、時間がかかるといらいらしてくる。どうやって時間を短縮するか、そればかり考えている。

 

 例えば変換されないといらだつので、専門用語を片っ端から単語登録。そのファイルをメンバーに公開して、必要ならダウンロードして使ってもらえるようにした。私からお願いしている人たちは、案外苦にせずコツコツ変換しているのかもしれないけど。

 

 過去に作った文書からガーッと収集する方法はないかと考えて、ジャパニスト2003を買ってみた。
 テープ起こししたファイルを読み込ませると、普通に変換できない言葉を自動収集して、単語登録してくれる。何文書読み込ませても、重複なしにうまく拾ってくれて、便利便利。ジャパニストとATOKでは品詞の分類が違うので、エクセルに貼り付けて品詞名を変換。

 

 そんな実験に半日つぶしているから、ますます入力する時間がない。便利ツールを作っている方が好きだというのは、入力者としてどうなのか。
 私は、便利ツール提供も含めて、入力者が仕事しやすい環境を整える側へ回った方が賢いんじゃないだろうか。といっても、自分が入力していないと何が便利か判断できないから、当然入力もするけど。

 

 自分の立場をそう決めてみると、来年どうなるかは明白だ。hiroさんにも他の方々にも、ますます頼ることになる。頼ろう。いい仕事を納品することがミッションなのだから。
 hiroさん記事の中だけど、今年の締めくくりの意味も込めて、hiroさんにも他の方にも。本当に一年間ありがとうございました。来年もよろしく。